到着が近い旨の連絡が届き、待合からロータリーへ。
車に乗ると
おかえりといつもの言葉。
ただいま、を返す声はちゃんと出せてたろうか?
一気に私は緊張してしまった。
帰ってこれて嬉しい、久々にお顔を見られて嬉しい、のに私はここにいていいのかと怯える私がいる。
ほれ、と出された手を取るだけで震える私は繋いだ手に強張る心を出さないようにしたいけれど
暁さんの手を傷つけないように、空いている左手を固く握り締めるだけで精一杯だった。
カーナビの画面に映る朝の報道番組が鳴り響く車中。
季節柄なのだろう賑やかで明るい話題で女性解説者なのかレポーターなのか声が耳につくのに
無言でどうしたら良いかわからなくなってる女がいる。
そんな空気を破るように、暁さんは私のスカートをペロっとめくる。
小さくなり膝頭を見るだけだった私が、おどおど、と暁さんの顔を見上げる。
ん?と笑顔を見せる暁さんの顔を見て視線で訴える。
声はあげられなかった。
恥ずかしい、怖い、見られたくない心の中では声がするのに口に出せない。
膝頭に視線を戻すとタイツに包まれた足を撫でさする。
びくり、と反応する私を見て満足をしたのかスカートを戻してくれた。
顔を見る、と変わらず穏やかな暁さんの顔で、取り敢えず粗相はしてない、のだろうと少し安堵する。
5分にも満たない短い時間のいたずら。
けれど、多分小さくなるだけの私以外の顔を引き出したくてしたいたずらかもしれない。
それに気づける余裕、はなかった。
そんな私を乗せた車は、いつもの街のいつものホテルに到着する。
いつもより少し離れ気味に歩く私を歩幅を合わせて待ってくれる暁さんに少し申し訳なくなりながら部屋に入った。
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